17日開かれたARGフォーラム「この先にある本のかたち」というのに参加した。長尾真国立国会図書館長が講演、電子図書館について説明した。それによると、国会図書館がデジタル化した図書の納本を受け、アーカイブを作る。それを館内利用者と公共図書館に貸し出す。一方館外に電子出版物流通センター(仮称)を設置し、そこにデジタル図書を無料で貸し出す。館外利用者はオンラインでアクセスし一定時間借用できる。この利用には、アクセス料を払う。また同センターは広告主から広告掲載量をもらい、アクセス料とともに権利者へ配分する。
広告モデルはグーグルのブック検索と基本的には同じだが、館外利用者からアクセス料をとるところが特徴だ。「国会図書館に来場する人は少なくとも地下鉄など交通費をかけて来館する。それと同程度のアクセス料をいただいてもいいのではないか」と長尾館長は語った。
それくらいの利用料金を支払うことに異議はないが、いつごろ実現するのかについては明確な発言はなかった。出版社の賛同がまだ得られていないらしい。デジタル納本を義務付けられ、だれでもオンラインでしかも低価格で書籍が入手できたら出版社はつぶれてしまう。
一億総表現者の時代。だれでも電子的に出版できるのだから出版社はもういらないという人もいるかもしれないが、書物の品質を保つには編集者が必ずいる。出版社の社員でなくてもいいのだが、著者の印税とともに編集のコストをどう確保するのか。電子図書館構想の最大の難点である。また絶版になった図書をどう扱うのかについても今回は説明がなかった。
金正勲慶応大学准教授からは、一足先に電子図書館を実現した韓国の例が報告された。金さんによると、利用は館内と連携した図書館の館内利用者に限られ、1ページにつき5ウォン、1ファイルにつき20ウォンの補償金を支払うことになっているそうだ。
これで著者と出版社が納得しているのかどうかは分からないが、デジタル化で編集コストを回収できなければ、書物の品質は必ず低下する。
この構想について25日の朝日夕刊が報じている。
ネット公開は絶版本に限られる可能性がある、と書いている。しかし、絶版とは何かについては触れていない。日本では出版社が重版をしないことが事実上の絶版であって、著者との契約は何もないのである。著者が重版してほしいと考えても出版社がもうからないと考えたら、重版してくれない。これを国会図書館がデジタル化して公開したら、権利侵害になるから、話は簡単ではない。現在流通中の書物ももちろんデジタルで公開はされない。デジタルで公開できるのは保護期間の切れた古い書物に限られる可能性が高い。
絶版とは何か。著作権問題以前の問題をまずきちんと解決しておく必要がある。
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