あの美術館が完成して1年後、私は美術館近くの都立高校に入学した。その高校の教師がだれもが進学、進学といって、つまらぬ受験技術を教えようとしていた。
私はそれが嫌でよく学校をさぼった。さぼって、できたての西洋美術館に行った。美術に興味などなかった。ルノワールとロダンが印象に残っている。
学校をさぼって行くから、平日で来館者は少なく、静かな時間を過ごせた。ゆったりと鑑賞できる環境が好きだった。
あれから50年以上が過ぎた。去年、高校時代以来、久しぶりに美術館に入った。混んでいた。昔の静けさなどなかった。美術館が世界遺産に立候補していることは知っていたが、なぜこれが世界遺産なのか、不思議だった。昔の面影などどこにもなかった。
高名な建築家の設計だそうだが、いまの西洋美術館は好きではない。
そもそも、たかが築後50年でなぜ遺産なのだ。世界遺産に指定されたら、来館者がこれまで以上に増え、昔の雰囲気は完全に失われる。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。