NHKの番組、プロジェクトXが北海道池田町の十勝ワイン物語を取り上げていた。成功までの人々の苦労がしのばれた。番組によると、現在の十勝ワインの原料となるブドウ清見の生産に成功したのは1974年、ワインになったのが翌年の1975年だったそうだ。
その史上初の歴史的ワイン生産をさかのぼること、7年前の1967年(あるいは翌年だったかもしれない)に私は十勝ワインを実は飲んでいた。そのワインにまだ名前はついていなかったが。
その年の晴れたある日、わが家によれよれのコートを着たみすぼらしい人が、学生だった私を訪ねてきた。会ってみると、「あなたはアムダリア(アフガニスタンとソ連の国境を流れる河)の向こうに行ってきたのでしょう。あちらのブドウの話を聞きたい」というのだ。
1967年、私はアフガニスタンで学術調査をしていた。学生がアフガニスタンで学術調査をするなど当時は珍しく、出発前と帰国後に朝日新聞で2回記事になった。調査隊の隊長は私だった。記事を読んで私を訪ねてきたのだ。
植物の調査に行ったわけではないから、あまりお役には立ちませんよ、と断りながら、アフガニスタンで食べたブドウの味や形の話をした。いろいろ質問された。ブドウの幹には触ったか。どんな地形だったか。水はどうだったか。最後にその人がお礼にと、2本のワインを差し出した。「これは国税の認可を得ていないのでどぶろくです。秘密に飲んでください」
わけを聞くと、池田町のヤマブドウで醸造したのだという。北海道にワインがあるなど信じられなかったが、さらに聞くと、その人は戦後シベリアに抑留され、中央アジアのブドウ農場で強制労働させられた過去を語り始めた。その時飲んだワインがおいしくて、帰還後日本全国を渡り歩き、あの味を出せるブドウを探し回ったのだそうだ。そして最後に見つけたのが池田町のヤマブドウだった、というのだ。
彼が帰った後、家族でワインを飲んだ。甘いポートワインしか飲んだことがない家族はみな、みやげのワインを絶賛した。
コートの人の名前は忘れた。彼の話がプロジェクトXで出てくるかなと期待して見たが、結局出てこなかった。
十数年前、札幌千歳空港でおみやげに十勝ワインを買おうとして、店員にヤマブドウの十勝ワインはあるか、尋ねた。すると「お客さん、なんで知っているんですか」といぶかしがられた。ヤマブドウの十勝ワインは量が少なくほとんど出回らないのだと聞かされた。
やっぱりコートの人の話はほんとだったんだと確信したが、プロジェクトXを見る限り、いまあのコートの不思議な人物は、十勝ワインの歴史には残っていないようだ。
岩野貞雄様とおもわれます
投稿情報: テルイセイイチ | 2011年1 月15日 (土曜日) 19:21
ヤマブドウの十勝ワインはもちろん存在し、販売されています。 名所は「アムレンシス」ヤマブドウの学名からとった名称であります。 フルボディータイプで力強い感じの、また熟成のブーケが調和した赤ワインです。 私は「バイザー」の一人として、とても今回は貴重なお話が拝読でき感謝しております。 この「アムレンシス」は、ほぼ池田町で販売ですが、今は通販や、有名デパートでの「十勝物産展」などで手に入れることが、できます。 お役に立てればとても幸いです。
十勝ワインのHP http://www.tokachi-wine.com/
投稿情報: 釣夫 | 2005年10 月23日 (日曜日) 09:55