尖閣ビデオを流出させた海上保安官が名乗り出た。流出経路と動機が捜査の対象になっている。この問題について多くの識者がコメントしているが、国家公務員の守秘義務違反になるのかならないのか、判断が分かれている。しかし、ジャーナリストの立場から見ると、法解釈は別として、彼はなぜ報道機関にビデオを持ち込まなかったのか。なぜ自分ひとりでリスクを背負い込んだのか。その辺が知りたい。彼は流出直後か直前か分からないが、某テレビ局の取材を受けている。だからなおさらそう思う。
もし報道機関に持ち込んでいたら、報道機関にはニュースソースの秘匿義務があるから、そう簡単に身元はばれなかったはずだ。報道機関がいつまでも尖閣ビデオをすっぱ抜かないから、焦って自分ですっぱ抜いたのだろうか。それとも彼が報道機関は信用できないから、自分でやるしかないと思っていたのだとしたら、報道機関は深く反省しなければならない。
報道機関に持ち込まれていたら、ビデオは出所が分からないように、またもっと見やすい映像に編集され、公開されたはずだ。身の安全も確保されたはずだ。
流出ビデオが早く拡散させることを目的に、youtubeに投稿したのだろうか。確かにyoutubeの利用者は多いから、早期拡散にはいいかもしれないが、捜査令状があればアクセス記録も提出せざるを得ない。報道機関も捜査令状に抵抗はできないかもしれないが、少なくとも差し止め請求をして抵抗の姿勢は示すだろう。
かつて沖縄返還交渉の機密文書をすっぱ抜いた報道機関がニュースソースである国家公務員を秘匿しきれなかった事件があった。それが日本社会の記憶として残っているのだろうか。とすれば日本のメディアの将来、自由な日本社会の未来は暗い。
一方、ネットは情報を拡散させるのに便利ではあるが、情報源を秘匿するには十分ではないことに気づく必要がある。IPアドレスから発信された場所くらいはすぐ特定できることはようやく日本でも知れ渡った。米軍の機密情報をばらしたwikileaksは当局に情報源を突き止められないようさまざまな工夫を凝らしているそうだ。youtubeだから安心だなど思うととんでもない。
もうひとつ気がかりなのは国際テロ関連の捜査情報がネットに流出した問題は尖閣ビデオ流出よりはるかに深刻な問題であるはずなのに、捜査がどこまで進んでいるのかさっぱり分からない。こちらは捜査に協力した個人が特定できる情報まで含まれているので、流出が現実の被害に直結する。尖閣ビデオは流出しても被害者はいないはず。いるとすれば政策判断を間違えた政府首脳である。
尖閣ビデオとテロ捜査資料どちらに捜査の力点を置くべきか、どちらが守秘義務を強固にしなければならないかはだれの目にも明らかである。メディアも尖閣ビデオ問題ばかり報道し、国際テロ関連情報流出問題へのカバーは薄い。
何を秘匿し、何を公開すべきか。何が自由な社会にとって守るべき事柄なのか。政府も報道機関も基本に戻って考えてもらいたい。
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