レコード輸入権が検討されている話を去年11月、BLOGで書いたが、音楽関係8団体はレコード輸入権を日本販売禁止レコードの還流防止措置と言い換えている。レコード輸入権では、貿易制限的響きがあり、消費者の理解を得にくいと考えたからに他ならない。
アジア諸国は物価水準が低い、国民所得も少ない、だからレコード販売価格を安く設定しないと日本のレコードは売れない。国内価格の半分から5分の1だそうだ。海賊版が出回っている市場ではもっと安くしないと売れない。
海賊版が日本に逆流してくる場合は水際で摘発できる。しかし、業界が正規にライセンスしたレコードが逆流してきたら、水際で阻止する法的根拠がない。だから、還流防止の根拠となる条文を著作権法に盛り込んでほしい、というのが音楽業界の本音である。
自由貿易を国是とする日本で輸入制限的立法をするのは確かに好ましくない。消費者の支持も得にくい。かといってこのままでは、2012年には1265万枚のレコードが還流してくる。そうなったら日本のレコード業界は存続できない。日本の音楽文化を創造するサイクルが破壊される、と業界は悲鳴に近い声をあげている。
同情したいのはやまやまだが、どうしても音楽業界のこの論理に合点がいかない。還流することが分かっているのに、なぜ国内価格よりはるかに安い価格で売るのか。まずそれが理解できない。業界は日本の音楽文化の普及に協力している、と胸を張るが、自分の首を絞めるのになぜ、なのだろう。
欧米の業界はそういう国にはライセンスを出していないそうだ。なら、なおさらなぜ日本の業界だけが自殺行為みたいな安値ライセンスをするのだろうか。もともと音楽といえども商品である。国際的に価格差があれば水が高きから低きに流れるように移動、輸出入されるのは当然だ。高いコメを守るために様々な輸入障壁を巡らせてきた日本に国際的に批判が高いのは、よく知られている。にもかかわらず日本のコメを守れという側には自然環境を守るとか、食の安全保障とかそれなりに理由がある。
音楽の場合、コメほどの理由があるのだろうか。まして日本人がつくった音楽が日本に逆流しても、日本文化が浸食されるはずもない。ひょっとすると日本人は高い音楽を買わされているのでは、という疑いさえ生じる。平気で一物に二価をつける感覚が理解できない。
仮に日本文化の普及に大義があって、安く日本音楽を輸出することが正当だとしてみよう。そうだとしても、その国の市場限定で出しているのだから、もし還流してくるのなら、契約違反でライセンス先を訴えればいいのではないか。安値でも正規に販売したレコードを正規に買った善意の第三者が日本に輸出しても、違法ではないからライセンス先は何もできないのかもしれない。だとすれば、還流レコードはどこにも違法性はないとしかいいようがない。
天に向かって唾をしたのは業界自身というほかはない。
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