ITSSって聞いたことがありますか。IT SKILL STANDARDの略。ひとことでいえばIT技術者の技術力を評価する基準だ。専門領域ごとに技術レベルをランクづけした分類表が通産省によってほぼ2年前に作成された。民間企業はそれを使って、自社に何が不足しているか、どうやって技術レベルを上げるか、に役立てようとしている。
このITSSを日本のソフト技術力向上にどう役立てるか、をテーマにしたシンポジウムが、慶應大学大岩元教授の呼びかけで開かれた。中国、インド、ベトナムなどの追い上げを受け、このままでは日本のソフト産業は空洞化せざるを得ない、ソフト産業が空洞化すれば、ソフトに支えられたあらゆる産業が競争力を失い、ひいては日本が沈没するという危機感からだ。
だが、会議は最初から激論になった。なぜお上が作ったものを民がありがたがるのか分からない。これで日本のソフト産業の国際競争力がつくとは思えない。などの意見が相次いだ。
日本のソフト技術者の技術レベルの分布図を作ると能力の高い人はごく一部で、あとは能力の低い人が多いので、分布図はピラミッド型ではなく、尖塔を持つイスラム寺院型になるといわれる。この実情に異を唱える人はいなかった。日本には55万人のソフト技術者がいるといわれるが、2,3人の技術者が100人の技術者を支えているのが現状だそうだ。
この低い部分を高めるためにITSSを利用するのだ、という支持派に対して、低い部分は中国、インドにいずれやられるのだから、何もする必要はない。寺院の尖塔にあたる部分をいかに太くするか、つまり、能力の高いソフト技術者をいかに多数養成するか、の方が大事ではないか、という意見が対立した。
産業界が必要とする人材を大学が供給していないという批判もあり、産学の協力が必要ではないか、という意見もあったが、昔からソフト技術者は自分で勉強して能力を高めてきたのだから、大学に期待する部分はない、という強硬意見もあった。
かつては同年齢の約1%しか大学に行かなかった。いまでは50%が大学に行くのだから、学生の能力が低下しているのは当然。その中で大学が学生を教育する難しさもある。発注者側の意向を聞いてシステムを組むのがソフト技術者だが、ソフトを組む以前に日本語のコミュニケーション能力が欠けている、という悩みが大学側から出た。
出席者の間でほぼ一致していたのは、ユーザー側のシステムを理解する能力が低いという点だった。CIOといえる人材はユーザー企業にほとんどいない実情に異論を唱える人はいなかった。ユーザー側代表が会場にいたら、どういう展開になっていたか分からないが、銀行統合に伴い大規模なシステムダウンを起こした例に見られるように、経営者層にシステムのことが分かっている人材がほとんどいないことを指摘する声もあった。
ITSSを利用するより、ほんとに優秀なソフト技術者にイチローや松井のような1億円プレーヤーが出れば、その方が問題解決の早道ではないか、という意見もあった。そうしたプレーヤーを待遇するためにも、ITSSが必要なのだが、雇用する側に評価する能力がなければ、ITSSも役に立たない。
それどころか、ITSSを技術者のリストラに利用する企業があったり、発注単価切り下げに利用する自治体が出てきたりしている実態も披露され、ITSSへの評価は相半ばした。
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