秋山郷がある長野県栄村。風光明美な土地で知られるが、山間地のためほとんどの世帯でNHK以外の地上波テレビが受信できない。この難視聴を解消するため、2年前から村の有線放送電話のADSLを利用した地上波再送信実験(IPマルチキャストによる映像再送信)が行われている。実験は成功し、事業化段階を迎えているが、いまだに事業化に踏み切れないでいる。実験をしている長野共同電算の佐藤千明さんが、ICPF発足後初のシンポで説明した内容を要約するとこうだ。
事業化できない大きな理由は、地上波キー局が再送信の同意を拒んでいることだ。総務省、文化庁とのいままでの交渉で、放送法、通信役務利用放送法、著作権法いずれの法律でも、事業化に問題がないことは明らかになっている。関係官庁の立場は、規制の問題があるわけではなく、民民の問題だから、民放の同意を得ることが望ましい、というだけで、突き放した態度をとり続けているのだそうだ。
当の民放と話し合った結果、民放側は番組が加工される可能性がある、品質が保たれる保証がない、内容の同一性の保持などに疑問がある、との理由でいまだに再送信の同意を与えていない。
私は昨年、現地で実験を見たが、品質、同一性になんら問題はなく、やや遅延があるだけでテレビと変わりはないことを確認している。インターネット上にコンテンツが流出しない防護壁も設備されている。
仮に再送信を認めても、難視聴解消のメリットはあっても、だれも損をしない構図になっているのは明らか。民放は難視聴解消の設備投資を免れるのだから歓迎していいはずだ。番組のスポンサーも視聴者が増えるから反対する理由がない。シンポ会場からは、ヤフーBBテレビなども同じ問題を抱えている、訴訟に持ち込めば勝てるのではないか、韓国のように同意をとらず黙って事業化してもいいのではないか、などの意見が相次いだ。
佐藤さんも指摘していたように、問題は地上波デジタル放送が普及した時、栄村のような難視聴地域が大都会のど真ん中で発生する可能性がある点だ。デジタル放送の電波は直進性が高く、高層ビルの林立する大都市は難視聴だらけになると考えられている。その時、栄村のような通信を利用したIP放送が難視聴解消の決め手になる可能性が高い。そうした将来を考えれば、テレビ業界は通信分野からの侵食を恐れるあまり、かたくなに再送信を拒むだけでいいのか、答えは明らかである。
(写真は栄村のテレビ再送信実験。テレビの上の箱がセットトップボックス)
blogの写真の解像度が低いのでフォトサロンに写真をアップロードしました。
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