NHKが子会社のNHKエンタープライズを通じて、過去に蓄積した番組をインターネットのブロードバンド環境に配信することを決めたのに続いて、日本テレビ、フジテレビが相次いで自社番組のネット配信に参入するようだ。これまで違法コピーが出回る、出演者の権利処理ができない、などの理由でネット配信にきわめて消極的だったテレビ局が、なぜ方針転換をしたのか。
テレビ局は現在最高の収益をあげているが、この体質がいつまで続くのか、不安がある。ネットの広告収入はラジオの広告収入を抜いた。いずれテレビ本体の広告収入も脅かされる可能性が高い。広告収入で無料放送を続けてきた民放の経営形態そのものが成り立たなくなるかもしれない。
その一方、ネットで自社番組を再利用し、収益をあげられるなら、潜在的市場は限りなく大きい。受信料収入の伸び悩みに悩むNHKも事情は同じだ。
NTTは2010年までに光ファイバー加入者を3000万世帯まで普及させる目標を立てている。もしそれが達成できたら、視聴率10%で1番組100円支払ってもらうだけで、3億円の収入になる。蓄積してきた番組が宝の山に変わる。
しかし、ネットへの再送信は大きな問題を抱えている。テレビ放送のために制作された番組をネット配信する場合、タレントなどの出演者、バックの音楽の演奏者、作曲家など番組にかかわった人たちから、ネット配信への許諾を改めてとらねばならないからだ。それをせずにネット配信をしたら、彼らの著作権法上の送信可能化権を犯すことになる。長野県栄村でADSLによる地上波の再送信が民放の許諾が得られず、事業化できない例を紹介したが、こうした事情があるからだ。
出演者などから再びネット配信への許諾をもらう作業は膨大な時間と手間のかかる作業である。NHKがネット配信する番組は当面60タイトルくらいしかないのは、このためである。民放とてこの作業は避けて通れない。
テレビ番組の多くは中小零細のプロダクションに外注され、制作される。契約書さえ取り交わすことはまれ、といわれる。そんな環境で出演者のネット配信許諾が取れているとは思えない。だからネット配信できる番組はごく限られたものになる。
貧弱なテレビ番組のネット配信がどれだけの収益を生み出せるのか、視聴者はどれだけ魅力を感じられるのか、疑問である。ネット配信で収益があがることが実証されれば、出演者らは2次利用の収入が期待できるから、許諾するようになるかもしれない。テレビのネット配信の成否は、収益をあげられるビジネスモデルが構築できるかどうかにかかっている。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。