日本のソフト産業が国際競争力を持てないのは、人材を育てようとしない大学の責任か、ソフトの重要性に理解がない産業界の責任か、産学の責任の押し付け合いが続いていたが、ようやく産学が連携して、人材育成に取り組む動きが出てきた。そのひとつ、慶応大学環境情報学部の大岩元教授が進める産学連携プロジェクトを参観する機会があった。
産業界からプロジェクトマネジャーを招き、大岩研究室の院生、学部学生4,5人と一緒に情報システムを構築するプロジェクトがいくつか走っている。たとえば「のおと」というプロジェクトは、学生がノートを取るのに、マイクロソフトのオフィスでは不便だと、キーボード入力だけで、下線が引けたり、文字の色や大きさが変えられたり、○や□が書けたりするエディターを開発している。
また、学生に人気のレストランは学生が卒業すると後輩の学生と新たな関係を築くのに苦労している点に着目、学生が入れ替わってもよい関係を維持できる双方向のweb情報システムを作る試みもある。
完成後商品化することを目指しているが、商品化できなくても、学生が実際のプロジェクトに参加し、経験を積むことで、システム開発には、どういう基礎的能力を身につけなければならないか、発見するチャンスを与えられることに意義がありそうだ。
大岩研究室ではもうひとつ、産業界のソフト技術者教育が大学でも可能かどうか試みるプロジェクトもある。情報システムを構築する上で有用なオブジェクト志向という方法論を学生に教育するもので、実践形式の授業が進められている。企業内教育と大学の教育が同じである必要はないが、大学側としては産業界が求めるソフト人材とは何か具体的な教育目標を得ることにねらいがある。大学教育がレベルアップすれば、産業界の教育コストはそれだけ軽減されし、全体として日本のソフト競争力は向上するはず、という考え方に基づいている。
慶応大学だけでなく全国の大学でこうした試みが始まっているようだが、各地の実践例を集めて評価、情報交換する場も必要である。いずれのプロジェクトも文部科学省、経済産業省の予算が出ているのだから。
最近のコメント