20年前のゴールデンウィーク直前の午前3時ごろだった。会社からの電話でたたき起こされた。ソ連で原発事故があったらしい。どう思うか。そんな問い合わせだった。「どうなっているんですか」と聞くと、上空を飛ぶヘリから、炉心に赤い炎のようなものが見えるというのだ。「それは偉いこっちゃ。これから社に行きます」と叫んでいた。もう締め切り過ぎたから、来なくてもよい、といわれたが、朝までまんじりともしなかった。
16日のNHKスペシャルで、20年目のチェルノブイリ報告があった。石棺(事故の原子炉)を封鎖するために困難な作業をした決死隊の人々に出始めたガンによる死亡。周辺地域で、白血病を含むガンの多発。子どもたちの染色体異常と甲状腺ガン。体内被曝と長期低線量被曝による影響である。放射線障害の見本市のような現状報告に、来るべきものが来たと戦慄を覚えた。
怒りを覚えたのは、IAEA(国際原子力機関)がこれらの被害を過小に見せる報告をしていることだった。原子力の平和利用を阻害するから過小評価をしているのではないか、と各国の専門家から批判され、多少の手直しをしたようだが、被害の実態を正しく報告することが、平和利用の第一歩である。それを理解しないIAEAではないはずなのだが。
放射線被曝は実行可能な限り少なくすることが大原則である。原子力関係者ならだれもが知っている原則である。ウクライナ、ベラルーシなど周辺に拡散した放射性物質を除去することは確かに不可能に近い。それでも、可能な限り被曝を少なくする努力こそ必要なのに、それさえ勧告しないIAEAはいったい何なのだ。もしNHKスペシャルのいう通りだとすれば、IAEAエルバラダイ事務局長のノーベル平和賞が泣く。
チェルノブイリに限らず、英国の核燃料再処理工場(BNFL)周辺の被曝、スリーマイル島原発周辺の被曝、いずれも過小評価される傾向があった。原発反対運動に火をつけるから過小に見せているのだろうか。だとしたら逆である。実態を広く知ってもらい、その上で反対派の理解を得なければ、いつまでたっても反対運動の火種はくすぶり続ける。そしていずれ爆発する。
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