夕張市財政再建団体に転落のニュースは地方に少なからぬショックを与えたようだ。夕張の中核産業だった北炭が閉山、その代わりに夕張メロンや国際映画祭など観光産業で地域振興に努力してきた自治体だったが、刀折れ矢尽きて、企業でいえば倒産状態になった。
40年前の夏休み、私は夕張の炭住街に住み込んでいた。大学の実習だった。いまでいうインターンシップみたいなものだ。教授の紹介状をもっていった。同じ原子力専攻クラスの学生はメーカーや研究所で実習したが、私だけ斜陽産業の石炭産業での実習を選んだ。石炭から石油へエネルギー革命が進行する時代。石油の次は原子力が石炭産業をさらに苦境に追い込む。その実態を知らずに原子力推進はできない、と考えていた。
炭住の人々は明るく迎え入れてくれた。地下2000メートルの石炭掘削現場の切り歯から、石炭液化実験の現場まで、すべてを見学させてくれた。いまは石油に負けるが、いずれ石炭は復活する。そんな夢に賭けていた。
夕食後のデザートがメロンだった。石炭の燃えかすフライアッシュを利用して、こんなものを栽培しているんですよ、と自慢していた。赤い果肉とやわらかな甘さが美味だった。まだ世間には知られていなかった。
それから20数年後、再び夕張を訪ねた。北炭閉山後の地域振興問題を取材するためだった。亡き中田市長と一晩酒を飲みながら話した。観光産業や映画祭で再び繁栄を呼び戻したい希望はよく理解できた。
すでにメロン栽培農家は成功していた。全国でもトップクラスの農業所得を誇っていた。メロン関連産業もできていた。しかし、メロンだけでは支えきれなかった。
他の地方が農業補助金で使いもしない各種公共施設を建設していたのに比べ、夕張の自助努力は見るべきものがあった。それにしても北海道、しかも山奥のどん詰まりに位置する夕張の不利を克服するすべがなかった。
その晩、中田市長にこう提言したのを覚えている。地元にカネが落ちる振興策じゃないとだめだ。年に一度の祭りではなく、一年中人が集まる施設を作る必要がある。それには公営のカジノしかない。何もない砂漠の中のラスベガスはカジノで繁栄している。夕張はベガスに比べ地理的条件はるかに有利である。何より若い人が集まる。映画祭もその中で位置づけたほうがいい。
わが国では賭博は違法である。違法行為を勧めたのだから、市長が取り合うはずがない。しかし、それから何年後か、石原東京都知事が東京湾埋め立て地にカジノを誘致したいと発言した。仮に東京でカジノを許可するくらいなら、夕張にこそ認可すべきだと思った。
小泉改革で地方は窮地に陥っているらしい。地方の自助努力が報われない改革って何だったのか。政権を去る小泉さんに聞いてみたい。
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