社保庁がずさんな事務処理をしていたことで厳しい批判を浴びている。批判されて当然なのだが、よく考えてみると社保庁の問題はこの国の後れた側面を明るみに出し、国民にお上は信用できないぞ、という意識を思い起こさせた。この功績は大きい。
功績その1、全国民に年金についての関心を持たせた。社保事務所に足を運んだこともない国民がぞくぞくと足を運んだ。行かないまでも電話をした。自分の年金がどうなっているのか、関心を呼び起こした。サラリーマンだった私も定年になるまで、年金には無関心だったし、社保事務所に足を運んだこともなかった。年金手帳は会社が管理していて、見たこともなかった。保険料は天引きだし、月々の保険料がいくらだったかも知らなかった。年金不信を口にしていた若者達にも関心を呼び起こした。これは社保庁の最大の功績だ。
功績その2、問題を引き起こした役人の責任を、時代を遡って追及する空気をつくった。自民党は菅直人元厚生大臣の責任まで追及する姿勢をみせている。日本の歴史で、役人や政治家が行政の事務処理のミスで責任を追及されたことがあっただろうか。年金に限らず行政サービスはすべからく国民の利害に直結する。にもかかわらず行政の無謬性神話が続いていた。いよいよその神話が崩れる。日本が神話時代から脱出する歴史的転機となる。社保庁のやったことは天皇の神格否定人間宣言に等しい画期的業績である。
功績その3,証拠を残しておく大切さを国民に思い知らしめた。領収書なんて、会社に経費を請求するためか、確定申告用に保存するくらいしか思いつかない日本人に、数十年単位で保存する必要性を痛感させた意義は大きい。領収書を提出させることは事実上無理だから第三者委員会で客観的に支払いの事実が確認されたら、年金を支払うようにすると安部首相はいう。政治家だって政治献金の領収書保存義務があるのだから国民も保存せよとなぜいわないのか、不思議である。
功績その4、情報の大切さ、情報システムの重要性を政府にも国民にも認識させた。手書きの年金記録をコンピューター記録に移行する段階でミスは起きた。データの入力にミスはつきもの。大量のアルバイトを動員して入力作業をしたものと思うが、入力した結果が正しくなければ、いくらコンピューターに処理能力があっても意味がない。そんな知識も対策もなしにコンピューター化した役人の情報システム音痴が1兆4000億円という膨大な情報システム投資につながった。これは投資というより無駄遣いそのもである。また役人の無知を食い物にしたベンダーがいた。その企業には多くの天下りがいた。官民とも情報システム担当者の質の向上、優れたシステム技術者の優遇をしないと、また同じミスが起きる。
他にも今回のミスには歴史的意義があるとは思いますが、みなさん考えてください。
社会保障カードの導入が検討されています。年金記録問題が生じているのは事実ですけど根本にあるのはいまの複雑な年金、保険制度で切換えが多く、手続きがいることではないでしょうか。で、カードを導入したら要るのは住基ネットとリンクした巨大な年金、健保管理システムかもしれません。複雑な制度をシステム化したらベンダーが高い開発料金やリース料金を要求するでしょう。あと、普段はきちんと動いていて、保険証の即日切換えで喜ばれても今度は自動化されていて年金だけでなく健康保険証にも影響しますから、なにか大混乱が起きるかもしれません。ANAの予約システムダウンのときのように役所や病院の窓口で混雑が発生するかもしれないですね。
投稿情報: バッドウイルス | 2007年8 月17日 (金曜日) 22:24
原さん、こんばんは。
5000万件だか6400万件だか分かりませんけれど、問い合わせの電話対応に28億円(コールセンターの座席数を増やしたから50億円以上に増えるかな?)、その照合システムの新規開発に1000億円とかいわれています。結局、官僚(ないし役人)の仕事を増やし、NTTデータと日立、トランスコスモスを太らせるだけではないですか。システムができることには限界があるのは周知の通り。
すると1人を確定するのにヒアリングや目検などで1万円かかると、ざっと7000億円はかかる計算です。それを社会保険の積立金から出すのか国税から出すのか、どっちにしても「私」が出すわけです。それなら、申請があったらとりあえず認めて、あとで虚偽が分かったら国が訴訟を起こせばいい。よもや7000億円まで行かないでしょう。社会の総コストを考えたとき、そういう超法規的な措置を講じることがなぜ論じられないのでしょうか。
投稿情報: 佃 均 | 2007年6 月17日 (日曜日) 00:27