母親が亡くなる何年か前、こういわれた。「私の初恋の人を探してくれないかね」。その人の名前は忘れた。どんな人だったのか、尋ねた。どこかの大学か女学校の教授をしていたらしい。
母の話もあいまいで、手がかりになる有力な情報はなかった。父親の手前もあり、結局探すのはやめた。もう亡くなっているんじゃない?それでおしまいだった。
母が亡くなってから、親戚からこういわれた。「お前のお母さんは若いころ、確かどこかの醤油メーカーの宣伝ポスターになったんだよ。あのポスターの写真探してくれないか」。いまでいうキャンペーンガールといったところだろう。どこのメーカーかも分からない。時期も分からない。それでも醤油メーカーなんて多くはないだろう、と考え、思い当たるメーカーいくつかに電話してみた。それらしいメーカーが瀬戸内海の小豆島にあった。電話したが、戦前の資料は残っていないという返事だった。
NHKの朝ドラ。主人公つばさの母親がキャンペーンガールに採用された殺虫剤の宣伝ポスターがしばしば登場する。その母親はいくら冷やかされてもめげないで明るく振舞う。コメディー仕立てのドラマだが、その朝ドラを見るたびに母親の初恋話とポスター話を思い出す。若いころ母がキャンペーンガールだったとは本人からは一度も聞いたことがない。息子には話せない事情でもあったのか。あの世で会えたら今度はちゃんと聞いてみたい。
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