90歳になる老人から電話がきた。「おい、クンニリングスの和訳はないのか。日本語は豊かな表現があると思っていたが、クンニだけは見つからない。確か、昔はアイナメといったはずだ。でもどの辞書にも、アイナメで引くと、魚の名前としかでてこない。フランス語、ドイツ語にはそれに相当する言葉はあるのに、日本語にはない。お前調べてくれ」
確かに手持ちの辞書やネットで調べてもクンニに相当する日本語はない。数少ない手持ちの江戸春画の書き込みにもそれらしい表現が見つからない。どういうことだ。興味が湧いた。
「そもそも日本人はクンニをしないのではないか、陰毛が多いからやりにくいし、クンニを嫌う女性もいる。春画にもそういう描写は見つからなかった」。私の調査結果を知りたくて、また老人が電話してきたので、こう答えた。老人は「そんなことはあるめえ。だれだってやってるはずだ」。不満そうだった。
国文学専攻で日本語に厳しかった母親に聞けば、分かったかもしれないが、もう天国にいる。ある春画の解説本をアマゾンからダウンロードして読んだ。そこでやっと見つけた。クンニは舐陰(しいん)フェラは吸茎というのだそうだ。シックスティナインは老人が指摘する通り相舐(アイナメ)だった。奔放なセックスを誰もが楽しんだ江戸時代ではあったが、衛生状態が悪く、いずれの行為もあまりする人が多くなかったらしい。それに当たる美しい春画も見つからなかった。
電話の主に調査結果を教えた。とても感謝された。「年をとると、やはりセックスしか楽しみがねえんだよ」。
昔の日本語が消え、カタカナ語が幅をきかす典型例である。
コメント
コメントフィードを購読すればディスカッションを追いかけることができます。