オリンピック観戦で欲求不満と睡眠不足が続いていた。それが荒川静香選手の金メダルで吹き飛んだ。これまで何人もの金メダリストを見たが、この選手ほどさわやかさを感じた選手はいなかった。
点数にならない演技にこだわって試合に臨み、金メダルをとってもはしゃぎすぎず、メディアのインタビューでも、私の嫌いな「そうですね、やっぱり」という決まり文句を口にしなかった。だれがつけたかcool beautyという、その言葉がぴったりだった。スルツカヤとコーエン選手のミスにも助けられたが、何より点取り主義でない彼女自身がさわやかだった。
昨夜NHKスペシャル金メダルへの軌跡を見た。いったんは世界一になりながら、採点方法が変更され、彼女の悩む日々を追っていた。メダルに届かなかったら、お蔵入りしていたはずの映像をつないでいた。オリンピック直前にコーチを替えたり、音楽を変更したりした経緯もあったが、本人は最後までメダルに届くとは思っていなかったのではないか。やるだけのことをやって、あとは天命を待つ心境だった、と想像した。だからあれだけ落ち着いた、澄み切った演技ができたのではないか。
若い日本代表選手が大言壮語を吐いてオリンピックに乗り込み、ほとんどがあえなく討ち死にしたのに比べ、荒川選手の心は水のように平らかだったのだろう。
オリンピックはメダルの色や数にこだわったり、ナショナリズム発揚に利用されたりすることなく、個人が技と力を思う存分発揮する場であるだけでいい。金メダルでなくても彼女の演技は十分さわやかだった。だが、彼女の心の軌跡も金メダルをとったからこそメディアが報じたのであって、メダルを逃していたら、メディアは報じてくれていただろうか。
最近のコメント