テレビを見ていたら昭和43年のヒット曲「今は幸せかい」(曲名は定かではないけれど)を佐川満男が歌っていた。
43年の夏、大学5年生の私は北海道にいた。大学の実習で北炭夕張にいた。地底深くまでもぐって石炭産業の実情を見た。実習終了後、私は道東を歩いた。釧路、弟子屈、網走。アイヌ問題をテーマにした武田泰淳の小説、「森と湖の祭り」に出てくる現場を訪ねるのが目的だった。
小説の主人公のモデルとなった人の息子である友人に、訪ねる先々の紹介状をもらっていた。その紹介状は抜群の効き目だったが、アイヌ問題には素人である私は、問題の本質に迫ることもなく、旅を続けた。
紹介状のない場所、弟子屈湖ではユースホステルに泊まった。会員ではないから、空き部屋がないと泊まれない。ダメなら野宿と決め込んで、ロビーで待っていると、同じキャンセル待ちの美しい女性がいた。
幸い空き部屋があり二人ともホステルに泊まれた。夕食後二人で旅の話をしながら歌を歌った。その時、「この歌が流行っているのよ」と彼女が「今は幸せかい」を教えてくれた。
二人は翌日分かれて各自の旅を続けた。約1週間後、札幌で紹介状を書いてくれた友人を訪ねた。夜、友人と飲みに出かけた道すがら、弟子屈で歌を教えてくれた彼女にばったり再会した。もちろんその夜は3人で飲んだ。
43年の夏が過ぎると、大学は大紛争に巻き込まれていく。全学スト中、何回かデートしたが、暮れに向けて紛争は激化、彼女と会う機会もなくなった。年が明けると安田講堂落城から全共闘は壊滅、ばたばたと卒論を書き上げ卒業することになった。
7月に新聞社に入社して地方に赴任した夏だった。彼女からハガキがきた。「もう年貢の納め時かも」とあった。暮れに東京に帰って電話したら、もう彼女は会社を辞めていて連絡がとれなくなった。
あの歌を聴くと彼女のことを思い出す。同時に「今は幸せかい」とつぶやいている自分がいる。
ご想像にお任せします。
投稿情報: junhara | 2007年7 月11日 (水曜日) 23:22
今は幸せですか?
投稿情報: いまいあかねかつぬま | 2007年7 月11日 (水曜日) 13:38