先日学生と一緒に記者会見に出席する機会があった。毎年恒例のSFCのORF(オープン・リサーチ・フォーラム)でのことだ。このフォーラムの冒頭、SFCの研究所が企業と連合して地元の藤沢市でWiMAXの実験を来春から始める、という発表会見があった。
質疑応答になって周りを見渡しても本職の記者からなかなか質問の手があがらない。同じ大学の身内だけどだれも質問しないなら、と私が手をあげた。「オープンな環境で実験するというが、ここでいうオープンとは何か。来春実験が始まるというなら、オープン性を具体化する計画なり、プロジェクトがすでにあるはず。具体的に教えてください」と私。
携帯電話が電波からコンテンツ配信、課金まで垂直統合でサービスしているのに対し、通信基盤もコンテンツも課金も分業してサービスするとどんな無線サービスが可能になるか、これから実験するのだ、というのが大学側の回答だったが、終了後私の授業マスコミ論を受けたことがある学生数人から「厳しい質問だったですね」という感想をもらった。
「あれでもソフトに質問したつもりだけど」と私は答えたが、いきなり本質に迫る聞き方に衝撃を受けたらしい。特に都知事選で運動員をした経験のある学生から、「私の知る限り知事候補への質問は候補の機嫌を損ねないように配慮した質問から入るのが普通でした。だから先生の質問にはびっくりしました」といっていた。
「そりゃ、おかしいね。ジャーナリストなら候補と何も利害関係はないから、配慮して質問するするなんてことはないはず。厳しい質問をするジャーナリストはホントにいなかった?」とこちらが聞き返した。
多くの場合、ジャーナリストは発表される内容について深くは知らないから、会見相手に教えてもらう立場になる。だが、教えてもらうから下手に出る必要は何もない。読者の立場に立って代わりに質問すると考えれば、真実に迫る質問をしないのは、読者を裏切ることになる。こんな説明をしなければならなかった。
教室でも同じような講義をしているが、座学で知るのと実地で知るのとではこれほどの大きな違いがあることを改めて思い知らされた。学生よ教室を出て実社会で学べ。
追記
その後の追加取材で分かった実験内容はこういうことのようだ。WiMAXの電波割り当てを受けた多くの企業はCATV会社。彼らはラストワンマイルにWiMAXを利用することを考えているが、どう使うかまだノウハウがない。だからだれもが参加できるオープンな実験環境を提供し、WiMAXにふさわしいビジネスモデルを考えるのだそうだ。イメージとしては、FMを利用したコミュニティー放送があるが、そのブロードバンド版にあたると考えればいいようだ。近所のスーパーの前を通りかかると安売り情報が映像つきで携帯端末に表示されたり、小売店のお得情報が出たりする。ご近所モバイルサービスとでもいった方がいいかもしれない。
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