東大大学院情報数理工学系研究科の平木敬教授らのグループが遠距離ウエブアクセス性能を1000倍高速化することに成功した。この記者発表を聞くため40年ぶりに東大正門脇にある工学部列品館を訪れた。
40年前ここは工学部全共闘が占拠、闘争本部が置かれていた。本部の会議に出るため原子力工学科代議員だった私は毎日のようにこの建物に通っていた。列品館はいまも昔の重々しいたたずまいのままだった。あの全共闘運動の面影などどこにもなかった。
発表によると、日米間で家庭用PC同士で6.5Gの超高速データ転送実験に成功した。市販の機器を利用して高速転送が可能になったことでSC2009のチャレンジインパクト賞をもらった。
6.5ギガといえばDVDのデータを1秒ちょっとで転送できる。実現すれば確かにすごいが、超高速環境を家庭でも利用できるようになったというのは大げさではないか、と質問した。10ギガは大学間ネットワークにはあるが、家庭向けにサービスされる予定はない。
しかもインターネットは転送されるデータがどこのルートを通ってくるか分からない。途中で渋滞があれば速度は落ちる。ベストエフォート型という原則がある。光ファイバーが家庭にまで来ても現在の通信速度はせいぜい数十メガしか出せない。
大学間の10ギガネットワークでしかも途中で渋滞を起こす要素がないから実現できたのではないか。市販の自動車を改造してサーキットで500キロの速度が出せたとしても一般道で500キロで走れないのと同じである。
いずれ家庭にも10ギガの光ファイバーが届く時代が来るかもしれないが、それは数十年後のことだろう。研究の結果を家庭でも享受できるようになるには、あとどのような技術が開発されなければならないのか、制度的に障害になるものは何か、経済的に高速ビジネスが実現する条件は何か、について聞きたかったのだが、期待する方が無理だった。
列品館を出ると正門から安田講堂に向かう銀杏並木が黄金色に染まっていた。この景色も40年前と何も変わっていなかった。
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